ネブル

 

川の彼岸で女が水に倒れた。

私は女の身を案じて水浸しになった。


もしかして、私は怯えているのだ。

 


女が寒い、と呟いた。

凍えてしまいそう。

お前は冷たいから、私に触らないで。


必死に揺り起こそうとした私を嫌がった。

私はそんな人間を忘れられない。

 


私が弱いだけだ、彼女を忘れられないのは、彼女を探さないのは。

私は拒絶を求めていた。

産まれてからずっと、拒絶が必要だった。


人当たりが良くて分かりやすい子。

好かれて当然だ。求められて当然だ。


私が私はそう生きたいと願った。

 


願いの結果がこの欲望だ。

透明になったあとで、私を求めた。

 


誰かに虐げられたいとずっと思っている。

誰にも興味を持たれなくなった瞬間の訪れが怖いから、私はずっと誰かの嫌いを探していた。

 

 

願いも欲も上手くいかなかった。

あまりにも、私は生きるのに向いていなかった。


全くその通りだ。

私は今濡れているし日が暮れて風が吹きはじめた。

体が冷たいのだ。

しかしそれは彼女もまた同じで、冷たくなっている。

 


彼女の肌に触れても温かくない。

私が自分の体温を感じるだけだ。


それでもずっとずっとずっと、嫌われたくなんてなかった。

 


人の体温が苦手だと言った時、ちょうどいいと言った。

私もお前も今は冷たい。

だから、手を握っていよう。