抱擁をきみに

彼らなんて放っておけばいい。

ぼくをけなさないと、息ができないのだ。

そんな人を、無理に抱きしめようとしなくていい。

 

いくら他人を愛せない自分が憎くても、抱擁は別の人にね。

 

何もわからない。

ぼくは本当にわからないのだ。

このまま、何もわからないままで生きるよりいっそぱっと、死にたい。

 

大きい駅を出ようとしたとき、なぜか虚しかった。俯いてるように見えても、足元を見つめながら階段を上っているだけだし、羽を持った虫が階段を進んでいて自分を惨めに思った。

 

そんなにかたく手を繋いで、そんなに人混みをかき分けて、あなたたちはどこへいくの。あなたたちに何が待ってるっていうの。

ぼくを追いこしていったあのふたりに、そんな羨望。

 

次第に増えていく赤と夜。

もう何ヶ月も同じ缶が売り切れたままの自販機。

カモミール蚊取り線香が香ると夏。

 

そんな生き方をしてきたのが最近は少し、恥ずかしくなってきた。

 

増えていく赤には気づくのに減っていく黒には気がつかない。

これは真夏の自販機の話だ。

 

さようならが言える人生は素晴らしいって誰かが言ってたね。

ぼくもそう思う。言えたらよかった。

 

それだけ

おいていけ

遺書を書きはじめて、思いのほか時間も経たず、あっという間に、書きあがった。

昔の、夏の話だ。

 

好きなひとが、あなたにも、あいつにもいた。

ぼくはあいつが好きだった。まわりの人は、そうだと思ってた。きっと、いまでも。

でもほんとうは、だいっきらいだったんだ。

時間しかなくて、趣味だってうわっつらで、どうにもならない、ぼくがそこにいた。

そんな、茹だる季節のあわいに、ぼくはいたよ。

 

なんでも支配しよう、操作しよう。

そういう両親がいたから、あの人たちを言いわけに、なにもしなかった。

みんな必死に生きてるのに、ごめんね。

ぼくが失敗しても、あの人たちが、ぼくは悪くないって言ったんだ。ぼくはそれを信じてた。

 

ほんとうに、ごめん。

 

みんなが必死に藻搔いてるのに、ぼくはいったいなにがしたいのか、ぼくにもわからない。

人間になれない、ぼく。

 

つめたいあめが、ふりたいだけふった日に、画面の上にはいくつも水たまりができた。小さかった。

 

中指にできたたこの表面は感覚がなくて、気持ち悪い。いつだって、ぼくは、ぼくが嫌いだよ。

それでも愛すしかないぼくを、やっぱり愛している。一生懸命、何にも邪魔されないように立ち回りながら。

 

いつか死んでやるつもりなんだ。ほんとうに。

どこか寒いところの、草むらに沈んでしまうのだ。

そんな、まぼろしすら愛しいだろ。

 

遺書はずっと前に書き上がっていて、今は少し寒くて、くしゃみをした。

 

きみの車に乗せてよ、ぼくは家の大人の運転が大嫌いなんだ。だから車も嫌いになった。

何度も何度も、車の中で罵られて怒鳴られた。

ぼくがときどき衝動的に承認を求めてしまうのは、そのせいもあるのだ。そんな苦しい思いを忘れられない。

でもきみの運転なら、平気かもしれないから。

 

ぼくは人間じゃないのかもしれないと、いつも不安だ。これだって昔に歪められた自己愛と受けた圧力の反動だろう。ああでも、ぼくは人間じゃなくたって、べつに構わない。

 

人間は今まで悪いことばっかりしてきたから、滅んだりしないかな。それなら本当に気味がいい。

 

それもいいかもしれない。

人間には、なりたくない。

日々が曖昧

テストが始まる前のほんの一瞬がずっと続けばいい。

そんなことを、思ったことはない?

 

トヨタの4WD、V6が停まって、小さな女の子が助手席から飛び降りた。

 

ある日の昼過ぎ駅前で、名前なんか知らないアイドルが、白いついたてに三方と大勢のファンに一方を囲まれて歌っていた。

せーの、ハイハイハイ、一生懸命掛け声をかけて、オタ芸と呼ばれるあれをして、歌なんか、聴いちゃいない。

そんなファンよりも大きな声で、マイクは通してたけれどね、確かにそこで歌っていた、アイドルがいた。

舞台の後ろ、ついたての隙間から見えたアイドルの、白い脚がなんぼんもみえて、それで、泣きそうになった。

 

その脚にさようならをして、夜を待ったよ。

後日談

その後にも、わたしは彼のゆめを見た。夢、夢、夢。

 

あれはほんとうに夢だったのか、そうじゃなかったのか分からない。刃を握って自ら突いたはずの胸は、目覚めた時綺麗だった。

それでも、きれいな胸の奥のほうに冷たいものがわだかまっている。

沢山のゆめの後で、わたしはさみしくなっていた。

 

汚れた白砂で、遠い波間に俳句を詠みたいような、丁度そんな気持ちだ。

 

あの墓はどこにあるのだろう。

 

届かない空の青を吸ってもしょうがないのに、いつまでも宇宙を向いて深呼吸していた幼いわたしとおなじまま、似たようなことをしている。

きっとまだ、彼の墓は作られていないし、ましてや彼の血は巡っている。あの墓地はわたしの地元にあった。奥に見えた山脈は冬の、三国山脈

ありもしない事実を夢に見てしまって、少し死にたくなった。

 

2019 7/11に書いた。

来年の、彼の誕生日にでもあげようと思い温めていたが、誕生日というのは本来祝福であるはずだし、言葉にも鮮度があるというから、今のうちに載せておく。

川上洋平の墓を見た話

以下の文章は実際の体験談に基づいておりません。

また、登場する人物、地名等の名称は実在のものとは関係ありません。

これは私が見た、ある夢の話です。

 

 

目の前に、その時代ありふれた墓があった。広い墓地の中でわたしはひとりで、否、土の下には静かな魂があるのだが、生きた血の流れるのはわたしだけだった。

つるりと磨かれた石の肌に灰色の風が吹きつけて、『川上家之墓』、深く刻まれたその文字に溜まった昨晩の雨が震えている。凍えそうな季節であった。

 

生きている肌が真っ赤にかじかんで、わたしは生を実感した。ひしゃくも水いっぱいのおけも、手にもつ哀しみの花束その色も、向こうの山脈から下りてきた風に消し飛ばされそうだった。

 

砂が目に入って、一つまばたきをした。

 

肌に温い風が当たって、それだけ。机六個分離れた教壇で演説している男と何かを頑張る三十八人。今日は一人休んでいるらしかった。自分の左側が明るいので目をやると白っぽい雲が覆う曇り具合。目が痛くなる、ぼやけた光。

 

強い風も、あの寒さも、みんなどこかへ行ってしまった。土の下の空間で黙っていた彼のいのちの冷たさだけが、わたしの心に残っている。

あの刹那わたしは北北東を向いて、彼の墓と対峙していた。冷然と吹く北風に顔を殴られて、からっぽな胸に刃を立てようとした。わたしは笑おうとしていた。これは擬人法。

 

さようなら、川上洋平

 

墓前に立ったら、何もかもどうでも良くなってしまった。彼が紡いだ言葉や物語はわたしのものになって、わたしは好きなように噛み砕いた。ほんとうに丁寧に噛んだ。そして彼はおしまいになって、お別れをして、人々の中に埋められた。彼は間違いなく世界一のロックスターで、世界一の人生で、帳を下ろした。わたしではもう手が届かない部屋で、笑い声を上げている。

 

男の演説があまりにつまらないのと、腹がへっていたのとで眠ることにした。男の演説にでてくる数字が耳の外でぐるぐる回転している。

 

閉じていた目から涙があふれそうになって開けてみる。耳の外をごうごうと風が吹きすぎて中也の詩を思い出していた。汚れつちまつた悲しみに、今日も風さえ何とやら。愛しくかわいそうなあの詩人の死に際は、ほんとうにさみしいものだったけれど、わたしも大して変わらない。

 

子を失った悲しみの詩は愛人を失った悲しみの詩になった。だって愛人は、愛する人を失った悲しみを歌ってくれなかったのだ。自分がいずれ死ぬと分かっていたのだから、そういう歌のひとつ、残してくれればよかったのに。

 

血しぶきを上げた胸とそのしぶき、耳の外で回転する数字のすべてが灰色の風に散ってしまった。

 

 

以上問題がありましたらご教示ください。

こちらで消します。

悪魔に愛されたい

下書きをみたら、どんな気持ちで書いたのか、もう忘れてしまったタイトルが、それだけで、残っていた。

 

悪魔に愛されたい

 

昼休み、担任が、電話をかけてくれて、あなたの娘が進路で悩んでいる、母にそう伝えてくれた。それだけ。

 

わたしの人生は、母の中で、遠くのほうまで、見通しが立っていたらしい。そのことには、気づいていた。受けたくもない中学を受けさせられたし、したくもないことを、わたしはしてきた。ずっとね。

母の、願いを、叶えるマシーンが、わたし。

あの女にとって、わたしの幸福なんかどうでもよくて、ただ教育ママのアイデンティティが大事だった。

 

なんで美大になんか行きたいのか理解できないと言う親に、わたしは、なんて返せばいいの。いままでずっと、束縛されて、きつく癒着を図られて、ずっと苦しかったんだよ。わたしは、誰かに、助けてほしい。でもそうに叫んだとしても、たぶんまわりは聞いてくれない。きっと、みんなに、わたしの声は聞こえない。

小学生だったわたしが、母が憎いと言ったところで、みんなにしたらそれは反抗期だった。

それだって、わかってたよ。

 

かなしいことばっか、わたしの、人格。

 

担任が、親との話し合いの糸口を、見出してくれたのに、失敗。あの女がにくくて、こわくて、目の前にしたら泣いちゃった。喋りたくても、喋っていても、すぐ遮られちゃう。わたしが喋るの、そんなにこわい?

担任はやさしいひとで、わたしを助けてくれる。なのに、うまくいかなくてごめんなさい。

 

やっぱり何もしたくない。そう思った。

下書きをみるまでの経緯の、ぜんぶだよ。

 

書いてしまわなきゃ、死にそうだったんだ。

桃を買って

桃って苦い。

でもわたしは、嫌いじゃないよ。べつに、好きでも、ないけど。

 

ベタベタして、たまに歯が、軋んだりするから。食べてるうちに、違う味になったりするでしょ。だんだん苦くなってきたりね。

 

ずっとおなじ味のままならいいのに。

 

食べても食べても、味が変わらないくだものは、ほんとうにすてき。

けど、そんな気持ちの悪いくだものは無いから、みんながグミにつくったんだね。

 

口の中に入れたふつうの、グミ。

美味しいけど、好きじゃない。甘くて、味が、変わらなくて。

なんてつまらないものなんだろうって、思った。お金のもとで動きまわる、どこかのおとなが作った、企画書に、この味がのっている。あんまりに美味しいから、捨てちゃった。

少なくともわたしの味覚の中では、これの味が変わることは、ないんだろうな。

 

砂糖が、指先についていて、なんだろうと思ったけど、気にしない。

これはあのグミに、最後までくっついて離れなかった、そんな企画書だと思うことにした。

 

だれかに、褒めて欲しくて、みんなに、好かれたかった。

こんな気持ちが、たくさん。

たくさん、わたしの表面をはいずり回って、いつでもいっぱいいっぱい、もう死んじゃいたいくらい。

だから、遺書だって書いたことあるんだ。

スマホの設定変えたら、どっか消えたけど。

死ぬな、って言われても、死にたいよ。

 

生きててえらいって、言われたかったけど、あなたの言葉は、いらない。

 

桃の味は、いつ食べても、苦い。

歯がきしきし鳴る。この感覚が、わたしはだいきらいなんだ。

それでもわたしは、桃を食べるよ。

 

お金のもとで動きまわって、ぐるぐるこのほしをまわり続けて、たぶんきみは、またわたしのところに帰ってくるんだろう。

 

だからみんな、桃を買おう。

ひとつのなまなましいピンクを切りわけて、いっしょに食べようよ。