平明に打ち震え

 私は、遠い夏を待っていた。後に引けなくなってきた人生の一掃を図る、ちょうどよい機会を待っていた。

 

 おごりあったソフトクリーム。食い意地をはって、私達は、溶ける前に平らげた。指先は、彼女の頬の温度を感じなかった。夏の暑さに馴染めぬ彼女の体を、私は陰で、こっそり哀れんだ。

 

 月日は、薬なんかではない。毒なのだ、きっと。後悔や焦燥を、私は抱えて彼女に縋って、一度だって感じることのなかった体温を、ずっと探している。過去に戻りたいことと、今を愛せないことが、生きることを苦しくする。

 苦しい気持ちを表現できる言葉が、これしかないのだ。彼女は私を忘れただろうか。

 私はまったく。

 

 不健康な生活の中で彼女の影に重なろうとしているのだった。

 そうやって毒だとは知りながら、身を削って彼女に見つけてもらおうとしている。探すことをしないから、見つけてもらえないのに。

 夜に彷徨おうとする君が、羨ましかったりもした。私には同じことをする体力が無いから。彷徨い切れていないから胸が空くような気持ちだったことも確かだ。

 私は肝心なところで、踏み切る勇気も、人に愛を与えるつよさも、何ひとつ持っていなかった。何処にも行けない私達は、どうすればいいのだろう。豊かな麦の穂を見るたび、彼女を憶う。

 

 さようならと、私はとても言えない。君と私のあいだを私は一方的な嘘や欺瞞で充たした。傲慢で卑屈で、そんな私は愛を享受することも捧げることもないまま、哀惜のままに死ぬだろう。